西本願寺書院

法話


【 寒さが紅葉を美しくするように 悲しみが人生を本物にする 】


 8月下旬から9月初旬までを北海道で過ごしました。以前からお約束のあった3ケ寺の報恩講法要に出講するためです。全日程を滞りなく終え、帰りの飛行機を待つ新千歳空港では、台風21号接近の影響で、東京・名古屋・関西方面を中心に欠航や条件付き運航の便が相次ぎましたが、私が搭乗する福岡便は辛うじて通常運航したおかげで、何とか予定通りに帰宅の途に着いたのです。しかし、この時の私は、直後に起こる事態を予想もしませんでした。

 
 北海道胆振東部地震が発生したのは、これから2日後のことです。しかも、今回お世話になったのが、まさに震源地となった厚真町並びに隣接する安平町の寺院だったのです。思わず自分の目を疑いました。早朝のニュースに映し出される映像は、つい数日前まで確かに私がいた町の変わり果てた光景を伝えていました。別れ際に挨拶を交わした多くの人々の顔が頭に浮かびました。居ても立ってもいられず、一人のご住職に安否確認を試みたところ、ご無事であることが判明し、ひとまず胸を撫で下ろしたのも束の間、返信のメールを読み進めると、悲惨な状況を前に呆然と立ち尽くされている様子記憶がが伝わってきました。その瞬間、約2年半前に私自身が被災者となった熊本地震のよみがえりました。聞きたい状況と伝えたい思いは多々ありましたが、先方のバッテリーの残量も気にかかり、最低限のメールに止めました。

 私は熊本地震を通して、辛い経験時間をかけて熟成されれば教訓となり、さらに昇華されれば寄り添う心が芽生えることを学びました。嬉しかった支援や救われた言葉の数々・・・。反対に怒りを感じた言動、悲しみを深めた出来事・・・。同じような体験をした者だからこそ同じくすることのできる喜び、怒り、悲しみ、痛みがあります。共感しただけでは寄り添ったことにはならないかもしれませんが、被災地の人々の“ いま ”と“ これから ”に心を向け続けたく思っています。

 地震から2日後、わが家に宅急便が届きました。差出人の名前を見て驚きました。安平町の寺院の門徒総代さんからでした。受付日は9月5日と記されていました。つまり、地震の起こる前日に出されたという証です。私はハッとしました。「 先生が家へ帰る頃に届くように送りますからね~ 」と気さくに話してくださったのを思い出したのです。中身はトウモロコシでした。毎年の報恩講のために専用の畑を耕し、ご自身でトウモロコシを育てているのですが、今年は大雨による日照不足で不作だったことも残念そうに語られていました。その僅かしか収穫できなかった希少な作物を送ってくださったのです。数時間後にまさかこのような惨事が襲うとは、夢にも思われなかっただろうと・・・、何よりご無事なのだろうかと・・・。複雑な心境で、箱一杯のトウモロコシを見つめるばかりでした。

 紅葉は寒暖の差によって美しく色づきます。人間も同じではないでしょうか。

 現在の悲しみが深ければ深いほど、阿弥陀さまは温もり満ちた抱擁であなたを包み込み、ともに涙してくださいます。そして、その温もりは深い悲しみに添い、私たちの人生を見事に色づかせて、やがて本物にするでしょう。

合 掌


( 熊本県・良覚寺 / 吉村 隆真 師 / 築地新報11月号・法話より転載 )


Copyright (C) 2008 The Saitamaso of the Jodo Shinshu - Hongwanji ha, All right reserved.
ホームページ上に掲載されているテキスト・写真等の無断転載は御遠慮下さい