西本願寺書院

法話


【 微笑は最高の化粧であり 優しい言葉は最上の妙薬である 】


 核家族化が進み、親子別所帯で暮らす家庭が多くなりました。別居であっても、近所ならば頻繁に会えますが、県外や海外など遠方になると、顔を合わせる機会も少なくなってしまうでしょう。便利な世の中ですから、携帯電話でのメールや画像のやりとりが、離れて住んでいる寂しさを解消する一助にもなっているようです。
 

 
お正月に息子さん世帯の里帰りを楽しみにしているお宅がありました。ところが、暮れになっても何の連絡もありません。心配したお姑さんは電話をしてみようと思い立ちます。しかし、仕事や家事の邪魔になっては悪いと配慮し、お嫁さんにメールを送ることにしました。

「 お正月には帰ってきてくれるんでしょ?」
「 帰りは何日頃になるの?」あれこれ言葉を巡らせましたが、直接的でぶしつけな文章にならないようにと、お姑さんなりに気をつかって言葉を選び、結局「 孫の顔を見るのが楽しみだわ~ 」と送信しました。

 しばらく経って、お嫁さんから返事が返ってきました。ワクワクしながらメールを開くと、そこにはお孫さんの顔写真だけが添付してありました。お正月に会いに来てほしい思いを託して「 顔を見るのが楽しみ 」と送ったのですから、写真だけ送られても仕方がありません。

 そこでもう一度、今度は「 孫の元気な姿が見たいんだけど・・・」と送ってみました。すると、しばらく経って、また返事が届きました。急いで開いてみると、お孫さんが元気に走り回っている姿を撮影した動画が添付してあるだけでした。

 確かに「 元気な姿が見たい 」とは伝えましたが、動画だけ送られても本意ではありません。意味が理解できていないのか、それとも適当にあしらわれているのか、お嫁さんの態度にだんだんと腹が立ってきたお姑さんですが、ここは冷静にと、考えに考え抜いて名案を思いつきました。そして、3通目に「 孫にたくさんのお年玉をあげたいのよ~ 」と綴ります。孫だけではなく親もお年玉で釣ろうと考えた、なかなかしたたかな作戦です。

 返信を心待ちにしていると、間もなくメールの着信音が鳴りました。はやる気持ちを抑えながら開いてみるのですが、画面をみてお姑さんは絶句します。そこには、「 お義母さま、お年玉はこちらへ振込みをお願いします!」の言葉に続いて、銀行の振込み口座番号が記してあったそうです。世知辛いですね。

 昨年の『 新語・流行語大賞 』に選ばれた言葉は『 忖度 』でした。この言葉が登場する発端となった一連の出来事は問題ですが、言葉自体は決して悪い意味ではありません。本来、忖度とは「 忖 」も「 度 」も「 はかる 」の意であり、相手の心を「 思いやる 」「 察する 」「 配慮する 」という意味が込められています。仏教語にも「 和顔愛語 先意承問(わげんあいご せんいじょうもん)」とあります。微笑みと優しい言葉で他者を思いやり、相手の心を察して求めに応じるという意味です。心に刻んでおきたい言葉です。

 春彼岸を迎えます。仏道修行の実践は困難な私たちですが、せめてお寺の法話で仏様の世界へと通じる道を聴聞させていただきましょう。

合 掌


( 熊本県・良覚寺 / 吉村 隆真 師 / 築地新報3月号・法話より転載 )


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